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金原出版株式会社 小児科 第50巻 第13号(平成21年12月1日発行)
特集:セロトニンの働きを考える

セロトニンの生理作用

有田 秀穂

 要旨

 セロトニン神経は脳幹の縫線核群に分布して、その軸索を大脳皮質、大脳辺縁系、視床下部、脳幹、脊髄など広汎な脳領域に投射している。関与する生理機能は、覚醒レベル調節、レム睡眠、鬱などの気分調節、「キレる」行動、生物時計の同調、睡眠時無呼吸、内因性痛覚抑制、抗重力筋の促通効果、副交感神経から交感神経への切り換え、など多岐にわたる。セロトニン神経の活動は覚醒時に自発性、持続的インパルス発射があるので、その役割は脳神経系の「覚醒状態」を調節するものである。覚醒時にセロトニン神経を更に賦活する因子は、歩行、咀嚼、呼吸のリズム運動と太陽光であり、抑制因子は慢性ストレスである。

Key words :セロトニン、覚醒、気分、鎮痛、リズム運動

 はじめに

 セロトニン(5-HT)は血管平滑筋を収縮させる物質として約60年前に発見された。その名前の由来はserumとtoneからきていて、血管の緊張を調節する働きにある。この作用は今日、片頭痛発症のメカニズムとの関連で注目されている。また、血管内5-HTは血小板凝集作用を有していて、それは止血機構に関与する。
 5-HTはさまざまな臓器で合成されるが、体内5-HT総量の90%以上を占めるのは消化管であり、その働きは腸の蠕動亢進作用として知られる。腎臓でも5-HTは合成されるが、その生理機能は十分な解明に至っていない。
 一方、5-HTは脳内でも合成され、広汎な脳脊髄領域に5-HT受容体が分布して、さまざまな神経機能に影響を与える。それらは、覚醒・睡眠、気分、情動、記憶、概日リズム、鎮痛、姿勢筋促通、自律神経調節などに及ぶ。本稿では、脳神経系のセロトニン生理作用に焦点を当てる。

 Ⅰ 5-HT神経系の総論

 1. 分布の特性1)

 5-HT神経系は、脳幹正中部の縫線核群に数万個の細胞体として存在し、その軸索は大脳皮質から脊髄まで広汎な脳領域に投射し、さまざまな機能に影響を与える(図1)。中脳背側縫線核にある5-HT神経は上行性に投射して、大脳皮質全体、側坐核や前脳基底部などの大脳辺縁系、視床下部の諸核(視交叉上核など)に投射する。関与する機能として、覚醒、衝動的攻撃行動、依存症、概日リズム調節などがある。正中縫線核の5-HT神経は海馬に投射して、記憶情報処理に影響を与える。橋・延髄に分布する5-HT神経は下行性に投射する。橋・大縫線核の5-HT神経は脊髄後角に投射して、内因性痛覚抑制系として働き、延髄縫線核群(淡蒼縫線核・不確縫線核)の5-HT神経は脊髄前角の運動ニューロン(抗重力筋支配)や脊髄中間外側核の交感神経節前ニューロンに影響を与える。

  2. 活動様式の特徴

 5-HT神経の活動様式には次の特徴がある。覚醒時に数ヘルツで規則的なインパルス発射が持続し、徐波睡眠になると発射がまばらとなり、レム睡眠では完全な活動停止となる(図2)。覚醒時に持続的な発射があることから、覚醒時の脳神経系の「状態」を調節する働きと定義される。

 5-HT神経の自発発射を更に賦活する因子は何か? 各種の覚醒・ストレス刺激が興奮させる可能性が当初予測されたが、通常の覚醒・ストレス刺激には全く反応しない。例えば、痛みや騒音など、外部からの覚醒・ストレス刺激によってビクともしない。ラットにネコを近づけるなどの恐怖、情動刺激も無効である。また、低酸素、低血圧、低血糖などの内部環境の変動によっても5-HT神経の持続的な発射活動は揺るがない。
 それでは、5-HT神経は何によって興奮するのか? 興味深いことに、リズム運動が5-HT神経の自発活動を増強させる、というユニークな性質が明らかにされた2)。歩行のリズム運動、咀嚼のリズム運動、呼吸のリズム運動、グルーミングなど、リズム運動が繰り返されると、5-HT神経の自発発射頻度が増強するのである(図3)。
 ヒトのリズム運動として、坐禅の呼吸法、ガム噛み、自転車漕ぎなどが5-HT神経を賦活するという報告もある3)。また、3〜6歳の幼稚園児で30分間の歩行運動を中心とした運動プログラムを実施すると、5-HT神経の活性化が起こることも報告されている4)

 3. Volume transmission

 5-HT神経が標的細胞に作用する様式は、古典的なシナプス伝達とは違う。その反応が比較的ゆっくりと起こり、効果が遷延する特徴、いわゆる"volume transmission" としての特性を示す1)。そのような生理学的特性は、組織学的には神経終末と標的細胞との距離が比較的広く、通常のシナプス形成を示さないという特徴と対応する。

 4. 5-HTトランスポーター

脳内に分泌された5-HTの処理には、5-HTトランスポーターが重要な働きをする。一般的に、5-HT神経のインパルス発射が神経末端に到達すると、神経終末からシナプス間隙に5-HTが分泌されるわけであるが、その分泌された5-HTは標的細胞の5-HT受容体に結合して、種々の反応を標的細胞に発現させる。シナプス間隙で使われなかった余剰の5-HTは、シナプス前膜にある5-HTトランスポーターによって再取り込みされることになる。再取り込みされた5-HTは再利用されることもあるが、神経末端にあるモノアミンオキシダーゼ(MAO)によって分解されて、生理活性を失い、排泄されることになる。いずれにせよ、5-HTトランスポーターは脳細胞外液の5-HT濃度を調整する役割を担う。
 この5-HTトランスポーターの働きを阻害する薬物が、選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)である。最近、うつ病、パニック障害、摂食障害、線維筋痛症などの治療薬として繁用されている。SSRIの薬理作用はシナプス間隙の5-HT濃度を高く維持することにあるわけで、それら疾患の病態の背景には、脳内5-HT濃度が恒常的に低い状態(それをここではセロトニン欠乏脳5)と呼ぶ)にあると解釈される。

 5. 血液脳関門にある5-HTトランスポーター

 5-HTトランスポーターはシナプス前膜だけではなく、血液脳関門(BBB)の脳血管内皮細胞にも存在することが、マウスとラットで最近明らかにされている。脳内に分泌された5-HTはBBBにある5-HTトランスポーターを介して、血管側に放出される可能性が示唆されたことになる。
 この可能性を支持するデータが、最近のラットin vivo実験で報告されている6)。ラット脳細胞外液5-HT濃度を連続測定する実験系において、5-HT前駆体(5-HTP)静注にて脳内5-HTを増加させると、血中5-HT濃度も対応して増加することが明らかにされている。この時にSSRIを前投与しておくと、脳内5-HT濃度が増加しても、血中5-HT濃度は増えない(血管側には放出されない)という結果が得られている。
 ここで注意しなければならない現象は、血中5-HTは血漿中に遊離型で存在する割合が僅かで、大部分は血小板に取り込まれて存在することである。脳由来の5-HTを正しく評価するには、血小板を含む全血中の5-HT量を測定しなければならない。通常の臨床検査ではPPP (Platelet Poor Plasma)における5-HTが測定されるので、それは役に立たない。言うまでもないことであるが、5-HT代謝物を測定しても、脳由来の5-HTを正しく評価できない(20年以上前には代謝物測定で脳内5-HT動態を推定する試みがあったが、現在はやられていない)。
 この解説の最初に述べたように、5-HT合成酵素を持つ臓器に、脳以外に消化管や腎臓などがある。したがって、それらの臓器から血中に5-HTが漏れてくる可能性も考慮しなければならない。そこで上記のin vivo実験6)では、消化管と腎臓を外科的に除去したラットにおいても同様のデータが取られていて、「SSRIを前投与すると、脳由来5-HTがBBBを通過出来なくなる」という結果が確認されている。以上から、BBBにある5-HTトランスポーターは、脳内5-HT濃度を正常に保つ働き(恒常性維持機構)と定義される。

 6. トリプトファン

 一方、5-HT合成の側に焦点を当てると、5-HTはトリプトファン水酸化酵素を持つ細胞で作られる。脳内でその酵素を持つのは、縫線核群の5-HT神経と松果体のメラトニン産生細胞である。5-HT合成の基質はトリプトファンであり、トリプトファンは必須アミノ酸として体外から摂取される必要がある。そのトリプトファンは通常の食材に含まれていて、特に豊富なのは、豆類、赤身の魚、チーズ、バナナ、ケールなどが上げられる。通常の日本食には十分に含まれていることになり、偏食しない限り、不足することはない。なお、トリプトファン欠乏食を動物に与えることによって、5-HT欠乏脳を人工的に作りだすことが可能で、それはうつ病などの病態モデルとして使われる。

 7. 太陽の光

 太陽の光あるいは高照度(2500〜3000ルックス)の光を動物に照射すると、脳内5-HT濃度が上昇する7)(図4)。組織学的には、網膜から縫線核に直接の軸索投射が証明されているので、この経路が5-HT神経を賦活すると言える。冬季うつ病(季節性感情障害)では、暖かい土地に転地療養することで、症状の改善が見られる。それは太陽の光が5-HT神経の自発性インパルス発射(脳内5-HT分泌)を増大させることで説明される。なお、時差ぼけに高照度光療法が使われる場合には、後述するように、視交差上核の生物時計への作用であり、上記の経路とは異なる。


 8. ストレス

 ストレス反応を仲介する回路として、視床下部・下垂体・副腎軸(HPA軸)が確立されている。視床下部・室傍核のCRH神経があらゆるストレス反応の起点となり、それが脳下垂体前葉からACTH分泌を促し、副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールを分泌させて、種々のストレス反応を発現させる。最近、室傍核CRH神経の軸索が直接に縫線核に投射して、5-HT神経の活動を抑制(5-HT分泌の低下)する経路が明らかとなった8)。したがって、5-HT神経の活動はストレスによって絶えず抑制される方向にプレッシャーを受けていることになる。換言すると、5-HT神経を弱らす最大の要因は慢性ストレスであると結論される。

 Ⅱ 5-HT受容体

 1. 受容体の分類9)

 5-HT受容体は5-HT1から5-HT7の7グループに分類され、さらにアミノ酸配列によって14種類のサブタイプに分けられる。7種類の5-HT受容体のうち、イオンチャンネル内蔵型の5-HT3受容体以外は全て7回貫通型のG蛋白共役型受容体である。5-HT1受容体はアデニル酸シクラーゼ(AC)活性を抑制し、細胞活動を抑制する。5-HT2受容体はイノシトールリン脂質代謝回転を促進し、細胞を興奮させる。5-HT4,6,7受容体はAC活性を促進する。
 このように多種類の受容体が存在するということは、それだけ5-HTには多様な生理機能があるということを意味する。ただし、受容体の種類が違うということと、それぞれの生理機能との間には、必ずしも選択的な対応関係があるわけではない。したがって、本稿では受容体別に解説しないで、各脳神経領域における部位別に項目を立てて、それぞれの生理機能を解説する。

 Ⅲ 5-HT神経の部位別生理機能

 1. 縫線核5-HT神経の自己抑制受容体(5-HT1A受容体)

 a. インパルス発射


 既述したように、5-HT神経の活動は睡眠・覚醒の状態に依存して変動し、覚醒時に持続的な自発インパルス発射が認められる。この自発的なインパルス発射の頻度を決めるのは、自己抑制受容体である5-HT1A受容体である(図5)。5-HT1A受容体の数が多いと、自発発射頻度が低く抑えられ、標的細胞への5-HT分泌が低くなる。この5-HT1A受容体の数を、遺伝子を介して制御する因子は、シナプス間隙における5-HT濃度である。したがって、覚醒時に5-HT分泌が恒常的に低下した状態(5-HT欠乏脳の状態)が長く続くと、適応性の変化が起こって、5-HT1A受容体の数が増加することになる。
 うつ病で自殺した脳の剖検では、背側縫線核の5-HT1A受容体の数が、非うつ病の死後脳と較べて、有意に増加していると報告されている10)。5-HT神経の活動が長期間低下していたことを裏付ける所見である。

 b. レム睡眠

 縫線核5-HT神経の自己抑制受容体にはもう一つ重要な役割がある。5-HT1A受容体アゴニストを背側縫線核に投与すると、レム睡眠様の現象(脳波に低振幅速波、急速眼球運動、姿勢筋の抑制など)が出現するようになる1)。そのメカニズムとして、5-HT神経が自己抑制された結果、REM-on神経である中脳腹側被蓋野のコリン作動性神経が脱抑制(興奮)され、それがレム睡眠の状態を発現させると考えられている。

 2. 内側前頭前野の後シナプス5-HT1A受容体と自己抑制ループ回路

 5-HT1A受容体は縫線核5-HT神経の細胞体にあるだけではなく、軸索投射領域の一つである内側前頭前野において、標的細胞のシナプス後膜にも認められる。動物実験で内側前頭前野に5-HT1Aアゴニストを投与すると、縫線核5-HT神経の活動が抑制される1)。他方、前頭前野から縫線核へはグルタミン酸作動性ニューロンによる投射があるので、それらはループ回路を形成する。すなわち、内側前頭前野を経由した背側縫線核5-HT神経への遠隔性自己抑制回路が存在すると考えられる。

 3. 腹外側前頭前野の後シナプス5-HT2A受容体と衝動的攻撃行動

 腹外側前頭前野には5-HT2A受容体が認められる10)。この部位の機能障害は保続症を発現させるので、その生理機能は行動の切り換えに関わると考えられる。また、外傷や腫瘍などで前頭前野が切除された患者では、情動による衝動的攻撃行動が制御できなくなるので、衝動的攻撃行動に対して前頭前野からのトップダウン制御による抑制が働いていることになる。このトップダウン抑制制御に対して、前頭前野に投射する5-HT神経は5-HT2A受容体を介して促通性に作用し、衝動的攻撃行動に強力な抑制をかけることになる。裏を返すと、5-HT欠乏脳では、衝動的攻撃行動に歯止めが掛からず、「キレる」という異常行動を誘発する可能性が考えられる。
 うつ病・自殺脳では腹外側前頭前野5-HT2A受容体の数が有意に増加している10)。その変化は、長期間の5-HT分泌低下(セロトニン欠乏脳)に対する代償機転と解釈される。

 4. 側坐核の5-HT2A受容体と報酬系の修飾

 中脳腹側被蓋野ドパミン(DA)神経は大脳辺縁系の側坐核に投射し、快情動の誘発、正の強化あるいは報酬系として特徴付けられる。この中脳辺縁DA路が異常に興奮すると、依存症や統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想)が出現する。このような側坐核におけるDA分泌に対して、5-HT神経は5-HT2A受容体を介して修飾する1)

 5. 海馬の5-HT3受容体とθ波

 海馬には5-HT1A、5-HT2A、5-HT3、5-HT4、5-HT6などの受容体が同定され、多様な生理機能に関与することが推測される。海馬の主要機能は記憶情報の選択と強化であるが、その際、海馬θ波の発現が鍵となる。この海馬θ波は、通常の覚醒時には抑制されていて、注意行動時に出現して、記憶情報処理を促進させる。この過程において、5-HTは海馬GABA作動性神経にある5-HT3受容体を介して作用し、θ波を抑制している1)。通常の覚醒時には5-HT神経の持続的な発射活動があるので、θ波は抑制され続け、海馬での記憶情報処理は注意行動以外では抑えられることになる。すなわち、入力される記憶情報は通常捨て去られる方向になる。さもなければ、記憶容量は直ぐに満杯状態になってしまうと考えられる。

 6. 前脳基底部と脳波

 前脳基底部コリン作動性神経は、その軸索を大脳皮質全体に投射して、覚醒レベルの調整に関与する。この経路は、従来から知られる脳幹網様体賦活系(脳幹から視床非特殊核を介して大脳皮質全体に至る経路:背側経路)とは違った新しい大脳賦活系(腹側経路)として同定されている。この前脳基底部に5-HTを局所投与すると、脳波が徐波化する1)。この変化は、α波の増加が顕著に現れて、通常の睡眠・覚醒による脳波変化(覚醒はβ波優位、睡眠はδ波優位)とは異なる。
 なお、前脳基底部のコリン作動性神経の障害はアルツハイマー病に関係することが明らかになっている1)。それは認知症としてまとめられるが、記憶障害や情動行動の異常など、意識レベルの単純な低下ではないという点で特徴的である。

 7. 視床下部・視交叉上核の5-HT1B受容体とサーカディアンリズム

 視床下部の視交叉上核はサーカディアンリズムの発生源および生物時計の同調機構として機能する。ここには正中縫線核5-HT神経からの投射があり、サーカディアンリズムのリセット機構に関与する。すなわち、網膜視床下部路を介して光情報が視交叉上核に入力されると、その神経終末には5-HT1B受容体があって、生物時計の光同調を促進させる1)。この機構が時差ぼけにおける高照度光療法に関与していて、生物時計の位相シフトを発現させる。
 なお、非光同調機構として、行動性同調機構(摂食行動や歩行運動など)も生物時計の調整に関与することが知られている。この場合、視床・外側膝状体から視交叉上核に投射する経路(膝状体視床下部路)が働き、5-HT7受容体を介して作用する。

 8. 小脳

 小脳へも5-HT神経の広範な投射があり、運動の同期化(synchronization)に関わっている。セロトニン欠乏脳の状態では運動失調(ataxia)が出現すると考えられる。自閉症では5-HT神経の機能障害が推定されているが、這い這い障害や歩行の協調運動障害においては、この小脳への5-HT分泌障害が関与していると考えられる。

 9. 延髄縫線核5-HT神経と睡眠時無呼吸症候群およびSIDS

 睡眠時無呼吸は健常人でも5秒以下で日常的に認められる。生理的に睡眠時無呼吸が発現するメカニズムとして、睡眠時、特にレム睡眠時には5-HT神経の活動が停止する現象がポイントとなる。換気運動において上気道閉塞を起こす部位は二カ所あり、頤舌筋の支配する舌根部と、喉頭筋群によって呼吸性開閉の起こる声門である。頤舌筋の運動ニューロンは舌下神経核にあり、喉頭筋群の運動ニューロンは疑核に分布していて、両者とも延髄縫線核5-HT神経から投射を受け、5-HT2受容体を介して筋緊張が促進される11)。睡眠時に5-HT神経の自発発射が低下・消失すると、この促通効果がなくなってしまい、それが気道を閉塞し易い生理的状態にさせる。そこに、肥満やアデノイドなど気道の開大性を損なう物理的条件が重なると、気道閉塞が遷延し高頻度となって、睡眠時無呼吸症候群として異常な状態が出現するようになる。
 また、乳幼児突然死症候群(SIDS)の剖検ではヒトの延髄の5-HT神経に異常が指摘されていて、それが窒息を起こし易い状況を形成していると考えられる1)

 10. 延髄・嘔吐中枢の5-HT3受容体

 消化管からの求心性迷走神経は、延髄の孤束核および最後野に入力し、その情報はさらに迷走神経背側運動核の細胞を介して嘔吐反射を誘発する9)。これらの神経核には5-HT3受容体が分布している。この反射経路をブロックする5-HT3アンタゴニストは、制吐剤として使われる。

 11. 脊髄後角5-HT1B/1D受容体と下行性痛覚抑制系

 脳内の各所を電気刺激すると、痛覚を抑制できる部位がある。それは、視床下部のβエンドルフィン含有神経から始まり、中脳中心灰白質を経由して、延髄の大縫線核(吻側延髄腹内側部:RVM)5-HT神経を介して、脊髄後角の第Ⅰ層に至る経路であり、下行性痛覚抑制系と呼ばれる。末梢からの痛み情報が入力される部位において、5-HTが痛覚伝導を抑制するのである。この場合、痛覚を抑制するのは、脊髄後角・侵害受容ニューロンの神経終末にある5-HT1B,1D受容体と、GABA作動性介在ニューロンにある5-HT1A受容体である。
 これに関連して、線維筋痛症が注目される。原因が明確に存在しないにも関わらず、全身の筋肉や関節に慢性の疼痛が出現し、うつ症状も同時に併発することが多い。その病態解明はほとんど進んでいないが、SSRIが奏功するケースが多い。その一つの解釈として、セロトニン欠乏脳の状態が病態の背景にあって、内因性痛覚抑制系が機能低下の状態になっている可能性が推測される。すなわち、痛みを誘発する原因がほとんど無くとも、脳に痛覚情報を伝達する経路が過敏となり、慢性的な痛みや不快感が体験されてしまう。このような状況でSSRIが投与されると、正常な内因性痛覚抑制状態が発現するようになって、症状が改善すると考えられる。

 12. 脊髄前角・運動ニューロンの促通効果

 延髄の淡蒼縫線核5-HT神経から脊髄前角の運動ニューロン群に投射がある。運動ニューロン群の中でも、特に体幹部の抗重力筋を支配する運動ニューロンに5-HT神経終末が密に分布する1)。5-HTの運動ニューロンに対する働きは、促通作用である。すなわち、5-HTは運動ニューロンを直接に興奮させて筋収縮を誘発させることはないが、大脳皮質運動野や脳幹の姿勢中枢などからの興奮性入力があると、その興奮をさらに増強させて(促通効果)、筋力をアップさせる働きがある。抗重力筋の促通は姿勢をよくする。

 13. 脊髄中間外側核と交感神経活動

 延髄の不確縫線核・淡蒼縫線核5-HT神経から脊髄中間外側核の交感神経節前ニューロンに興奮性入力がある1)。縫線核5-HT神経の刺激は交感神経を興奮させ、血圧や心拍数を上昇させる。5-HT神経の活動は睡眠時に低下あるいは消失していて、覚醒すると、持続的な自発発射が出現する。そのような発射様式の変動は、自律神経のバランスが覚醒に伴って副交感神経優位から交感神経優位にシフトすることとよく対応する。覚醒時の交感神経緊張は5-HT神経の発射活動によって支えられていると考えられる。

おわりに

 小児の心身の健康および正常な発達のためには、「早寝、早起き、朝ご飯、朝日を浴びてリズム運動」というキャンペーンに示される日常生活が推奨される。この標語の生理学的な意義は、ここで解説してきた5-HT神経の諸機能とよく対応していると言えるのではないだろうか。

文献

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